2015年1月11日日曜日

芥川龍之介 『羅生門』 14

芥川龍之介 『羅生門』
Ryūnosuke Akutagawa Rashōmon

しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を



 しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくの事である。老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪しらがさかさまにして、門の下を覗きこんだ。外には、ただ、黒洞々こくとうとうたる夜があるばかりである。
 下人の行方ゆくえは、誰も知らない。

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