2015年1月11日日曜日

芥川龍之介 『羅生門』 08

芥川龍之介 『羅生門』
Ryūnosuke Akutagawa Rashōmon


そこで、下人は、両足に力を入れて、いきなり、梯子から上へ飛び上った。




 そこで、下人は、両足に力を入れて、いきなり、梯子から上へ飛び上った。そうして聖柄ひじりづかの太刀に手をかけながら、大股に老婆の前へ歩みよった。老婆が驚いたのは云うまでもない。
 老婆は、一目下人を見ると、まるでいしゆみにでもはじかれたように、飛び上った。
「おのれ、どこへ行く。」
 下人は、老婆が死骸につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行手をふさいで、こうののしった。老婆は、それでも下人をつきのけて行こうとする。下人はまた、それを行かすまいとして、押しもどす。二人は死骸の中で、しばらく、無言のまま、つかみ合った。しかし勝敗は、はじめからわかっている。下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへ※(「てへん+丑」、第4水準2-12-93)じ倒した。丁度、にわとりの脚のような、骨と皮ばかりの腕である。

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