2015年4月1日水曜日

夏目漱石 『坊っちゃん』 01-03

夏目漱石 『坊っちゃん』 一
Soseki Natsume Botchan


この外いたずらは大分やった。


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 この外いたずらは大分やった。大工の兼公かねこう肴屋さかなやかくをつれて、茂作もさく人参畠にんじんばたけをあらした事がある。人参の芽が出揃でそろわぬところわらが一面に敷い
てあったから、その上で三人が半日相撲すもうをとりつづけに取ったら、人参がみんな踏みつぶされてしまった。古川ふるかわの持っている田圃たんぼ井戸を埋めて尻を持ち込まれた事もある。太い孟宗もうそうふしを抜いて、深く埋めた中から水がき出て、そこいらのいねにみずがかかる仕掛しかけであった。その時分はどんな仕掛か知らぬから、石や棒ちぎれをぎゅうぎゅう井戸の中へ挿し込んで、水が出なくなったのを見届けて、うちへ帰って飯を食っていたら、古川が真赤まっかになって怒鳴り込んで来た。たしか罰金を出して済んだようである。
 おやじはちっともおれを可愛がってくれなかった。母は兄ばかり贔屓ひいきにしていた。この兄はやに色が白くって、芝居しばい真似をして女形おんながたになるのが好きだった。おれを見る度にこいつはどうせろくなものにはならないと、おやじが云った。乱暴で乱暴で行く先が案じられると母が云った。なるほど碌なものにはならない。ご覧の通りの始末である。行く先が案じられたのも無理はない。ただ懲役ちょうえきに行かないで生きているばかりである。

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【肴屋】
 おそらく居酒屋ではなくて魚屋のこと.

【藁】
 稲・麦などの茎をほしたもの.日本では稲の藁,欧米では麦のわらと考えられる.

【節】
 竹や葦などの茎で間を置いて区切りをなしているところ.周りよりも少し盛り上がったりしている.竹の場合,節に生長帯がある.生長点は,積極的に細胞分裂が行うことで,植物の生長の中心となる部分である.一般的な高等植物の生長点は茎と根の先端部に位置するが,竹の場合,筍の時点ですでに60程度の節があり,その各々すべてが成長から.

【相撲】
 二人が土俵内で組み合い相手を倒すか土俵外に出すことによって勝敗を争う競技.
個人的には大相撲もスポーツではなくて神事だと思う.

【尻を持ち込む】 後始末をせまる.「尻」が事件や行為の結果の意味.「尻を持っていく」なら後始末の申し入れを行うの意味.

【孟宗(もうそう)
 竹の一種で孟宗竹(もうそうちく)の略.九州地方に多く分布している日本で一般的な竹であり,日本の竹の中では最も大きく育つ.竹林の拡大被害の原因となることが多い種である.
 味の良いたけのこが採れるが,物性が劣るので材料としてはあまり用いられない.竹細工などには主に真竹(まだけ)が用いられる.因みに真竹は日本で最も多い竹である.分類として竹はイネ目イネ科タケ亜科であり.木を脅かす勢いで伸びても二次肥大成長(木の幹が太くなる成長)をしないので草として分類される.「竹の秋」は春の季語である.

【女形(おんながた/おやま)
 女役を演じる男性役者.古くは「女方」と書いていた.例えば能では「シテ方」のように,「方」は名詞に伴って,その係を表していた.

【碌な(ろくな)
 物事の様子や性質が正しいこと.打ち消しの語を伴う「碌」は当て字で本来は「陸」と書く.

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