2015年4月6日月曜日

夏目漱石 『坊っちゃん』 02-06


夏目漱石 『坊っちゃん』 二
Soseki Natsume Botchan

 そう、こうする内に喇叭が鳴った。


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 そう、こうする内に喇叭が鳴った。教場きょうじょうの方が急にがやがやする。もう教員も控所へ揃いましたろうと云うから、校長に尾いて教員控所へはいった。広い細長い部屋の周囲に机をならべてみんなこしをかけている。おれがはいったのを見て、みんな申し合せたようにおれの顔を見た。見世物じゃあるまいし。それから申し付けられた通り一人一人ひとりびとりの前へ行って辞令を出して挨拶あいさつをした。大概たいがい椅子いすを離れて腰をかがめるばかりであったが、念の入ったのは差し出した辞令を受け取って一応拝見をしてそれをうやうやしく返却へんきゃくした。まるで宮芝居の真似まねだ。十五人目に体操たいそうの教師へと廻って来た時には、同じ事を何返もやるので少々じれったくなった。むこうは一度で済む。こっちは同じ所作しょさを十五返繰り返している。少しはひとの了見りょうけんも察してみるがいい。

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【教場】
 教室.授業をするところ.

【申し合わせる】

【見世物】

【拝見】

【宮芝居】

【体操】

【了見】

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