森鴎外 『高瀬舟』
Mori Ōgai Takasebune
庄兵衛は「うん、そうかい」とは言ったが、聞く事ごとにあまり意表に出……
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庄兵衛は「うん、そうかい」とは言ったが、聞く事ごとにあまり意表に出たので、これもしばらく何も言うことができずに、考え込んで黙っていた。
庄兵衛はかれこれ初老に手の届く年になっていて、もう女房に子供を四人生ませている。それに老母が生きているので、家は七人暮らしである。平生人には
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【意表】
(1)考慮に入れていないこと.思いの外.
「意表に出る」は.相手にとって予想外のことをする意味を持つ.「意表を突く」.
(2)心のなかの思い.意中.意向.
【初老】
40歳のこと.老境に入りかけた年頃.
【平生(へいぜい)】
(1)ふだん.平素.
(2)生前
【吝嗇】
けち.物惜しみ.しみったれ.「吝い(しわい)」でけちであること.
【倹約】
節約.無駄遣いをしないこと.(「吝嗇」や「けち」に比べ良いニュアンスをもっている.本文では人からは吝嗇と呼ばれるが,自分では倹約と言っている.)
【寝巻/寝間着】
寝る時の衣服.パジャマ.
【身代/身袋/身体(しんだい)】
(1)一身に属する財産.家の財産,資産.
(2)身分.地位.(財産を有するような)
【扶持米】
俸禄米(ほうろくまい).武士が米でもらう給与.特に知行のない武士が貰う場合が多い.
【善意】
良い心
【手元を引き締める】
生計を引き締める.節約する.
【勘定】
(1)数を数えること.
(2)代金を支払うこと.その代金.
(3)利害,損得を予測して計算すること.
(4)見積もり.考慮.
「勘定が足りない」で代金を払うためのお金が足りないこと.
本文では「月末に勘定が足りなくなる」とあるが意味がよくわからない.武士の給与は毎月もらえるものではなく,年に二回か三回の節季払いであり,売掛などの集金も同じく毎月あるものではない.毎月という会計の感覚はどうも江戸時代には合わないと思う.
【内証】
表向きにせず内々にすること,つまり内緒(ないしょ)と同じ意味.もともと仏教用語で自らの心の中で真理を悟ること.
【帳尻を合わせる】
(1)「帳尻」は帳簿に記載した事柄の末尾.収支決算書ような帳簿の末尾の数字を合わせる(特に赤字を黒字にする.)ようなことを「帳尻を合わせる」という.
(2)物事のつじつまを合わせる
【借財】
借金.他から金銭や財物を借りること.もたはその金銭や財物のこと.
【五節句/五節供】
一年に五回の儀式を行う日.1月7日の人日(じんじつ)の節句,3月3日の上巳(じょうし)の節句,5月5日の端午(たんご)の節句,7月7日の七夕の節句,9月9日(ちょうよう)の節句の日のこと.江戸時代に幕府はこの五節句を祝日としている.
【里方】
嫁,婿,養子などの実家やその親類.
【七五三】
数え年で女子は3歳と5歳,男子は3歳と7歳の11月15日に氏神の神社で行う子供の成長を祝う祝儀.現在は新暦の11月15日やその前後の土日に行うことが多い.行うことは個人で神社に参拝したり神社の催しに参加することである.江戸時代は旧暦の11月15日に行なった.
個人的に疑問なのは,徳川綱吉が息子の徳松の健康を盛大に祈願したことが今日の七五三の始まりだとされているが,それがどれくらいの勢いで日本全国に広まったのかがよくわからないことである.はたして小説の舞台となる時代に京都にまで七五三が本当に広まっただろうか?
あるいは当時の武士階級が行なっていた七五三は本来の「髪置(かみおき)」,「袴着(はかまぎ)」,「帯解き(おびとき)」の儀であり,今日の大衆的な七五三とは異なるものだとすれば話が変わってくるかもしれない.
【心苦しい】
(1)心に苦痛を感じる.
(2)相手の身を思いやって心が痛む.気の毒である
(3)相手に対して申し訳なく思う.すまない気持ちがする.気がとがめる.
【穴をうめる】
損失や欠損を補う.
【波風が起こる】
(1)人間関係においてもめごとがおこる
(2)世の中が騒ぎ乱れる.
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