2015年9月6日日曜日

夏目漱石 『坊っちゃん』 11-07

夏目漱石 『坊っちゃん』 十一
Soseki Natsume Botchan

 それから三日ばかりして、ある日の午後、山嵐が憤然ふんぜんとやって来て、いよいよ時機が来た、おれは例の計画を断行するつもりだと云うから、そうかそれじゃおれもやろうと、即座そくざに一味徒党に加盟した。
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 それから三日ばかりして、ある日の午後、山嵐が憤然ふんぜんとやって来て、いよいよ時機が来た、おれは例の計画を断行するつもりだと云うから、そうかそれじゃおれもやろうと、即座そくざに一味徒党に加盟した。ところが山嵐が、君はよす方がよかろうと首をかたむけた。なぜと聞くと君は校長に呼ばれて辞表を出せと云われたかとたずねるから、いや云われない。君は? と聴き返すと、今日校長室で、まことに気の毒だけれども、事情やむをえんから処決しょけつしてくれと云われたとの事だ。「そんな裁判はないぜ。狸は大方腹鼓はらつづみたたき過ぎて、胃の位置が顛倒てんどうしたんだ。君とおれは、いっしょに、祝勝会へ出てさ、いっしょに高知のぴかぴかおどりを見てさ、いっしょに喧嘩をとめにはいったんじゃないか。辞表を出せというなら公平に両方へ出せと云うがいい。なんで田舎いなかの学校はそう理窟りくつが分らないんだろう。焦慮じれったいな」
「それが赤シャツの指金さしがねだよ。おれと赤シャツとは今までの行懸ゆきがかり上到底とうてい両立しない人間だが、君の方は今の通り置いても害にならないと思ってるんだ」
「おれだって赤シャツと両立するものか。害にならないと思うなんて生意気だ」
「君はあまり単純過ぎるから、置いたって、どうでも胡魔化ごまかされると考えてるのさ」
「なお悪いや。だれが両立してやるものか」
「それに先だって古賀が去ってから、まだ後任が事故のために到着とうちゃくしないだろう。その上に君と僕を同時に追い出しちゃ、生徒の時間に明きが出来て、授業にさしつかえるからな」
「それじゃおれをあいのくさびに一席うかがわせる気なんだな。こん畜生ちくしょう、だれがその手に乗るものか」


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