Natsume Sōseki
Nihyaku-tōka(The 210th Day)
「御山へ御登りなさいますか」
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「御山へ御登りなさいますか」
「うん、早く登りたくって、仕方がないんだ」と圭さんが云うと、
「僕は登りたくなくって、仕方がないんだ」と碌さんが
「ホホホそれじゃ、あなただけ、ここへ御逗留なさいまっせ」
「うん、ここで
「そうさ、だいぶ、強くなった。夜のせいだろう」
「御山が少し荒れておりますたい」
「荒れると烈しく鳴るのかね」
「ねえ。そうして
「
「灰でござりまっす」
下女は障子をあけて、
「御覧なさりまっせ」と黒い指先を出す。
「なるほど、
「ねえ。少し御山が荒れておりますたい」
「おい君、いくら荒れても登る気かね。荒れ模様なら少々延ばそうじゃないか」
「荒れればなお愉快だ。
「ねえ、今夜は大変赤く見えます。ちょと出て御覧なさいまっせ」
どれと、圭さんはすぐ椽側へ飛び出す。
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