Natsume Sōseki
Nihyaku-tōka(The 210th Day)
「聞えるだろう」と圭さんが云う。
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かあんかあんと鉄を打つ音が静かな村へ響き渡る。
「まだ馬の
「僕の小供の時住んでた町の真中に、一軒
「豆腐屋があって?」
「豆腐屋があって、その豆腐屋の
「寒磬寺と云う御寺がある?」
「ある。今でもあるだろう。門前から見るとただ
「誰だか鉦を敲くって、坊主が敲くんだろう」
「坊主だか何だか分らない。ただ竹の中でかんかんと
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【癇走る/甲走る】
音声が細く,高く,鋭く響く.
【単衣(ひとえ/ひとえぎぬ)】
(1)裏地のついていない着物.「袷(あわせ)」は裏地が付いている着物.
(2)裏地のない肌着にする着物.
【かき合わす/掻き合わす/かき合せる】
(1)離れているものを寄せ合わせる.繕う.
(2)別々のものを混ぜあわせる.「柿合塗/掻合塗」は生地に渋柿と弁柄を混ぜたものを塗り,透漆を一回塗った塗り.
(3)琴,琵琶などを合奏する.
(4)金,琵琶の弦を調整したあとで,試しに弾いてみること.
他には,「掻き合せ」で舞楽における枚はじめの手を意味する.「かき」は接頭語で,「かき」に続く動詞の語調を良くし,語意を強める働きがある.
【膝頭】
膝の関節部の前面.ひざこぞう.慣用句の「ひざがしらで江戸へ行く」は,苦労の割に効果の上がらないことを意味する.
【行儀】
立ち居振る舞いの作法.もとは仏教で修行・実践に関する規則や仏教の儀式を意味する
【つま先上がり】
足の爪先を上へ向けて上がること.少しずつ登りになること.あるいは,そのような坂を登るさま.
【寒磬寺】
同名の寺は実在はしないが,「」(東京都新宿区喜久井町61)という寺がモデルである.これは漱石の生誕地(夏目坂のあるところ,当時は新宿ではなく牛込)のすぐ近くにあった.
漱石の随想『硝子戸の中』では「西閑寺」として登場し,豆腐屋と竹藪と鐘が同じように描写されている.例えば梵鐘音については,「……朝晩の御勤の鉦の音は、今でも私の耳に残っている。ことに霧の多い秋から木枯の吹く冬へ掛けて、カンカンと鳴る酉閑寺(西閑寺)の鉦の音は、何時でも私の心に悲しくて冷たい或物を叩き込むように小さい私の気分を寒くした。……」(『硝子戸の中』より)とある.
【竹藪】
竹の林.竹藪の竹は地下茎でつながっているので一本一本が違う種であるということはない.地下茎が密に這うことで地面を保持するので地震時に竹藪の中に入ると安全と言われている.一方根や地下茎は地表の浅いところでしか伸びず,地盤をしっかり固めているとは言いがたい.そのため竹藪は山間部や傾斜地では地滑りに弱いのもまた事実である.竹藪の周囲の地面下30センチメートルを囲うと地下茎が広がらないので竹藪の拡大を防ぐことができる.
【庫裏】
仏教において,お供え物や僧の食事を調理などをする建物で,食堂(じきどう)とも呼ばれる.転じて寺の中で住職が住むところ.仏殿や本堂に対して僧房や厨房の総称.妻帯が許された真宗では,さらに転じて僧の妻を意味する.
【敲く】
叩く.「推敲」の「敲」の字を用いる.→
【霜】
空気と接触している物体の温度が氷点下より下がり露点温度(霜店温度)に達した時,空気中の水蒸気が昇華し,物体の表面に氷ができる現象のことである.あるいはその現象によってできた微細な結晶構造をもつ氷のことである.よって,一部の文学に見られる霜を露が凍ったものと表現するのは科学的には誤りである.
冬において,晴天かつ無風の条件を満たした時に放射冷却が起こりやい.早朝のように気温が5度以下に達する時間には,放射冷却により地表付近の温度は気温よりも数度低くなる.これは氷点下以下の温度であるので,前述のように霜が降りるのである.特に地面や植物を霜が白く覆うことが多い.このように霜ができることを「霜が降りる」と表現する.
【寸】
尺貫法の長さの単位.約3.03センチメートル.10寸で1尺.
【石畳/甃】→
道や庭などに敷き詰めた平らな石.あるいは敷き詰められた所.
【山門】
(1)寺院正面の門.
(2)山寺や寺のこと.特に比叡山延暦寺を意味する.
「三門(さんもん)」は禅寺の仏殿前にある門で「三解脱門」に例えた呼び方である.「三解脱門(三解脱/三三昧)」とは,「涅槃」の境地に至るため「空解脱」,「無想解脱」,「無眼解脱」の三つの解脱をすることを言う.本堂を「涅槃」として,本堂に至るための門を三解脱に例えているのである.
【夜具】
布団,寝間着などの総称.寝るときに用いるもの.寝具.
【海老のようになる】
腰を曲げ,体を丸める.
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