2015年9月6日日曜日

夏目漱石 『坊っちゃん』 11-04

夏目漱石 『坊っちゃん』 十一
Soseki Natsume Botchan

 おれと山嵐は校長と教頭に時間の合間を見計みはからって、嘘のないところを一応説明した。校長と教頭はそうだろう、新聞屋が学校にうらみをいだいて、あんな記事をことさらにかかげたんだろうと論断した。
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 おれと山嵐は校長と教頭に時間の合間を見計みはからって、嘘のないところを一応説明した。校長と教頭はそうだろう、新聞屋が学校にうらみをいだいて、あんな記事をことさらにかかげたんだろうと論断した。赤シャツはおれ等の行為こういを弁解しながら控所ひかえじょを一人ごとにまわってあるいていた。ことに自分の弟が山嵐を誘い出したのを自分の過失であるかのごとく吹聴ふいちょうしていた。みんなは全く新聞屋がわるい、しからん、両君は実に災難だと云った。
 帰りがけに山嵐は、君赤シャツはくさいぜ、用心しないとやられるぜと注意した。どうせ臭いんだ、今日から臭くなったんじゃなかろうと云うと、君まだ気が付かないか、きのうわざわざ、僕等を誘い出して喧嘩のなかへ、んだのは策だぜと教えてくれた。なるほどそこまでは気がつかなかった。山嵐は粗暴そぼうなようだが、おれより智慧ちえのある男だと感心した。


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