2015年9月8日火曜日

森鴎外 『高瀬舟』 04-04


森鴎外 『高瀬舟』
Mori Ōgai Takasebune
 
 庄兵衛の心の中には、いろいろに考えてみた末に、自分よりも上のものの……

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 庄兵衛の心の中には、いろいろに考えてみた末に、自分よりも上のものの判断に任すほかないという念、オオトリテエに従うほかないという念が生じた。庄兵衛はお奉行ぶぎょう様の判断を、そのまま自分の判断にしようと思ったのである。そうは思っても、庄兵衛はまだどこやらにふに落ちぬものが残っているので、なんだかお奉行様に聞いてみたくてならなかった。
 次第にふけてゆくおぼろ夜に、沈黙の人二人ふたりを載せた高瀬舟は、黒い水のおもてをすべって行った。



<完>

【念】
 考え.思慮.

オオトリテエ〈 authorit 〉
 (法的な)権威.権力

【奉行】
 ここでは「京都町奉行」で,喜助を裁いた者.

【ふに落ちぬ/腑に落ちぬ】
 納得ができない.「腑」は,はらわたの意味.

【おぼろ夜】
 おぼろ月(朧月)が照らす夜.「おぼろ月」は春の夜に現れるほのかに霞んだ月. 

【面】
 ここでは水面の意味.

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