2015年9月14日月曜日

夏目漱石 『二百十日』 01-01

夏目漱石 『二百十日』 一

Natsume Sōseki
Nihyaku-tōka(The 210th Day) 

 ぶらりと両手をげたまま、けいさんがどこからか帰って来る。

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 ぶらりと両手をげたまま、けいさんがどこからか帰って来る。
「どこへ行ったね」
「ちょっと、町を歩行あるいて来た」
「何かるものがあるかい」
「寺が一軒あった」
「それから」
銀杏いちょうが一本、門前もんぜんにあった」
「それから」
銀杏いちょうの樹から本堂まで、一丁半ばかり、石が敷き詰めてあった。非常に細長い寺だった」
這入はいって見たかい」
「やめて来た」
「そのほかに何もないかね」
「別段何もない。いったい、寺と云うものは大概の村にはあるね、君」
「そうさ、人間の死ぬ所には必ずあるはずじゃないか」
「なるほどそうだね」と圭さん、首をひねる。圭さんは時々妙な事に感心する。しばらくして、ねった首を真直まっすぐにして、圭さんがこう云った。

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【銀杏/公孫樹/鴨脚樹】
 落葉高木で分類上,広葉樹ではなく針葉樹である.裸子植物門イチョウ綱イチョウ目イチョウ科イチョウ属.原生種のイチョウ綱はこの一種類のみ.イチョウ科の植物は中生代から新生代にかけての世界各地の地層で化石として多く発見されているが,氷河期にそれらのほぼ絶滅している.
 日本には仏教の伝来とともに原産地とされる中国から伝来したとされ,仏教寺院に多く植樹された,江戸時代になると火に強い性質から火除地に多く植えられ,現在は生命力が強く,剪定や大気汚染に強いので,街路樹として樹種としては最も多くの本数が植えられている.
 しかし,果実のなる雌株を植えると,秋に熟した銀杏(ぎんなん)特有の臭いと落下したその果実で道路が汚れるので,黄色に染まってゆくイチョウを単純に愛でるのはなかなか難しいのである.銀杏(ぎんなん)にアレルギー反応を持つ人もいるので果実のならない雄株だけを植えるところも多いが,銀杏(ぎんなん)の匂いで秋を感じる事実があるのもまた事実である.
 果実の仁である銀杏(ぎんなん)は食用に用いられ,愛知県稲沢市で多く生産されている.
 イチョウは公孫樹(こうそんじゅ/いちょう)や葉っぱの形から鴨脚樹(かもあしじゅ/いちょう)とも呼ばれる.

【本堂】
 寺院で本尊が安置されている手て者.「本堂」は宗派などによって様々な呼び方がありおおまかに分けると,法相宗と真言宗では「金堂」,天台宗では「中堂」,禅宗では「仏殿」,浄土宗では「御影堂」,真宗では「阿彌陀堂/阿弥陀堂」である.

【丁/町】
 長さの単位.約109メートル.60間で1丁.面積の単位なら約9,918平方メートル.

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