森鴎外 『高瀬舟』
Mori Ōgai Takasebune
しばらくして、庄兵衛はこらえ切れなくなって呼びかけた。「喜助。お前……
前へ
しばらくして、庄兵衛はこらえ切れなくなって呼びかけた。「喜助。お前何を思っているのか。」
「はい」と言ってあたりを見回した喜助は、何事をかお役人に見とがめられたのではないかと気づかうらしく、居ずまいを直して庄兵衛の
庄兵衛は自分が突然問いを発した動機を明かして、役目を離れた応対を求める言いわけをしなくてはならぬように感じた。そこでこう言った。「いや。別にわけがあって聞いたのではない。実はな、おれはさっきからお前の島へゆく心持ちが聞いてみたかったのだ。おれはこれまでこの舟でおおぜいの人を島へ送った。それはずいぶんいろいろな身の上の人だったが、どれもどれも島へゆくのを悲しがって、見送りに来て、いっしょに舟に乗る親類のものと、夜どおし泣くにきまっていた。それにお前の様子を見れば、どうも島へゆくのを苦にしてはいないようだ。いったいお前はどう思っているのだい。」
次へ
【気色(けしき)】
(1)表情や態度にあらわれた心のさま.特に表情.
(2)外から見た物事の様子.されに物事がはじまる兆候.
(3)少しばかり
【動機】
(1)人が意思を決めたり,行動を起こしたりするときの直接の要因.特に目的を伴う意識的な欲望を指す.(西洋哲学の用語の訳語)
(2)芸術において創作のきっかけとなる題材や思想のこと.音楽においては楽曲を構成する最小単位の旋律も意味する.モチーフ.
(3)機械などの物体の運動が起こるきっかけ.
【身の上】
(1)人の一身に関わること.
(2)運命
(3)世間の評判.体面.
0 件のコメント:
コメントを投稿