Natsume Sōseki
Nihyaku-tōka(The 210th Day)
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「そら恵比寿が来た。この恵比寿がビールでないんだから面白い。さあ
「うん、ついでにその玉子を二つ貰おうか」と圭さんが云う。
「だって玉子は僕が
「しかし四つとも食う気かい」
「あしたの
「うん、そんなら、よそう」と圭さんはすぐ断念する。
「よすとなると気の毒だから、まあ上げよう。本来なら剛健党が玉子なんぞを食うのは、ちと
「おおかた熊本でござりまっしょ」
「ふん、熊本製の恵比寿か、なかなか
「うん。やっぱり東京製と同じようだ。――おい、姉さん、恵比寿はいいが、この玉子は
「ねえ」
「生だと云うのに」
「ねえ」
「何だか要領を得ないな。君、半熟を命じたんじゃないか。君のも生か」と圭さんは下女を捨てて、碌さんに向ってくる。
「半熟を命じて不熟を得たりか。僕のを一つ割って見よう。――おやこれは駄目だ……」
「うで玉子か」と圭さんは首を
「全熟だ。こっちのはどうだ。――うん、これも全熟だ。――姉さん、これは、うで玉子じゃないか」と今度は碌さんが下女にむかう。
「ねえ」
「そうなのか」
「ねえ」
「なんだか言葉の通じない国へ来たようだな。――向うの御客さんのが生玉子で、おれのは、うで玉子なのかい」
「ねえ」
「なぜ、そんな事をしたのだい」
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