2015年1月11日日曜日

芥川龍之介 『羅生門』 13

芥川龍之介 『羅生門』
Ryūnosuke Akutagawa Rashōmon

「きっと、そうか。」



「きっと、そうか。」
 老婆の話がおわると、下人はあざけるような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を面皰にきびから離して、老婆の襟上えりがみをつかみながら、噛みつくようにこう云った。
「では、おれ引剥ひはぎをしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」
 下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎとった檜皮色ひわだいろの着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。

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